特に後者は、今から70年以上前に啄木がどのように捉えられていたかを伝えていて興味深い。
啄木が歌壇に新風をもたらしたとき、これを俳体歌または俳諧式実感歌と呼び、いはゆる専門歌人から白眼視された。(略)一見、平明蕪雑な表現方法は、因習技巧家たる彼らをして、徳川時代の俳諧歌と同い卑俗な歌人と蔑視せしめたものであらう。啄木の歌の一般普及性といふことは、彼の芸術の卑俗性を指してゐるものとは今日では誰も信じてはゐないのである。/油川鐘太郎「啄木雑記」
ここで「俳諧歌」(滑稽味のある歌)という捉え方が出ている点に注目したい。啄木自身が「へなぶり」(狂歌の一種)と言っていることにもつながる話だと思う。
1976年10月20日、みやま書房、850円。