イザベラ・バード研究の第一人者で『完訳 日本奥地紀行』の翻訳も成し遂げた著者が、「旅行記を科学する」という姿勢に基づき、バードの旅の本質や特徴を明らかにしていく。
その緻密で厳格な取り組みは圧倒的で、無名女性の物見遊山の旅のように言われることもあった「日本奥地紀行」のイメージを一変させている。バードは世界中を旅した有名な旅行者であり、キリスト教の伝道という使命を持ち、英国公使館や日本政府の支援・協力を受けての半ば公的な旅であったと捉えるのである。
バードの旅は、外国人が自由に旅=移動できる範囲が局限されていた時代にあって、地域的制限を受けない旅だったという点で、きわめて特異なものだったのです。
このような事実は、日本の旅が滞在総日数のほぼ四分の一を公使館で過ごす旅として計画されていたことを示します。
私はバードの日本の旅の目的の一つがキリスト教の普及の可能性を考えることにあったという、従来等閑視されてきた事実を、彼女の記述を通して明らかにしました
「日本奥地紀行」の翻訳に関しても、著者は歴史的・文化的背景を踏まえた訳を徹底的に(ちょっとコワイくらいに)追求する。
たとえばwestern Japanを西日本(高梨氏)とか日本の西部(時岡氏)と訳したのでは新潟の位置についての西洋人の認識を読者は理解できず、「本州西岸」[日本海側]としなければならない
なるほど! 日本人は「本州西岸」という捉え方は絶対にしないので、これには全く気づかなかった。地理学者である著者の面目躍如といった感じがする。
2014年10月15日、平凡社新書、880円。