2006年に新人物往来社から刊行され、2009年には新人物文庫に入った作品の復刊・再文庫化。巻末に「新章 あれから十二年―偽書事件の今」が追加されている。
1975年から77年にかけて青森県の『市浦村史 資料編』に掲載されたことで有名になった「東日流外三郡誌」(つがるそとさんぐんし)。地元の東奥日報の記者である著者が、その真贋論争を取材したルポルタージュ。
とても面白い。
稚拙な偽書である「東日流外三郡誌」が、なぜ公的な文書に載り全国的な反響を呼ぶに至ったのか。著者は取材を続けていく中で、偽作者である和田喜三郎の手口を明らかにしていく。
それは、仏像などの古物を売り付ける際に偽の古文書でお墨付きを与えるというもの。神社のご神体や安東氏の財宝、役小角の墓、安倍頼時の遺骨、大量の和田家文書など、まさに何でもありの状態だ。
津軽半島の寒村をどうにか有名にしたいという切ない村おこしの気持ちと、人間ならだれしも持っているささやかな功名心。それらが複雑に絡んで生まれたのが『市浦村史資料編 東日流外三郡誌』と言えそうだった。
さまざまな人間の欲望が入り混じって拡大した偽書事件。その真相を明らかにした著者の執念が光る一冊である。
2019年3月25日、集英社文庫、800円。
いったい偽書というものは、国家がアイデンティティの危機に見舞われた時代に作成されるようですが、日本を含めて、近現代国家においても偽書作りは後を絶たないようです。
「東日流外三郡誌」の場合は、畸人の存在と村おこしということが発端のようですが、最近では「椿井文書」など困ったもんだと思いながら、何となく惹かれてしまう自分もおり、これはこれで困ったもんです。
馬部隆弘『椿井文書』、藤原明『日本の偽書』、松本健一『真贋』なども積ん読しているところです。