新鋭短歌シリーズ49。
2014年から2020年までの作品227首を収めた第1歌集。
文字のない手紙のような天窓をずっと見ている午後の図書館
知恵の輪を解いているその指先に生まれては消えてゆく即興詩
ひとつまた更地ができる ミルクティー色をしていて泣きそうになる
ほとんどが借りものである感情を抱えていつものTSUTAYAが遠い
遠目には宇宙のようで紫陽花は死後の僕たちにもわかる花
部屋干しの水蒸気たちに囲まれて眠る 命名とはこんなもの
強弱に分けるとすれば二人とも弱なのだろう ピオーネを剝く
公園を逆さにしたら深くまで一番刺さるあの木がいいな
風邪引きの体には鐘が吊されるゆえに幼い夕暮れを呼ぶ
レモンティーのレモンを二人とも食べて以来長らく雨が降らない
1首目、四角い天窓を手紙に喩えたのがいい。雲が流れていく感じ。
2首目、指先と知恵の輪の動きの美しさにしばらく見惚れてしまう。
3首目、ミルクティー色と表したところに、記憶の懐かしさが滲む。
4首目、TSUTAYAでは様々な人生や物語を借りることができる。
5首目、下句の直観が鋭い。紫陽花の球形は永遠に近い感じがする。
6首目、目に見えない水蒸気に包まれて、また生まれ直すみたいだ。
7首目、皮がツーっと剝ける感じ。弱であることの安心感もある。
8首目、一番高い木だろう。自分の身体に突き刺さるようで怖い。
9首目、身体が重たく感じられて、遠く幼い頃の記憶が甦ってくる。
10首目、何かをきっかけに何かが変ってしまう。偶然だとしても。
2021年2月12日、書肆侃侃房、1700円。