2021年02月23日

笹川諒歌集『水の聖歌隊』


新鋭短歌シリーズ49。
2014年から2020年までの作品227首を収めた第1歌集。

文字のない手紙のような天窓をずっと見ている午後の図書館
知恵の輪を解いているその指先に生まれては消えてゆく即興詩
ひとつまた更地ができる ミルクティー色をしていて泣きそうになる
ほとんどが借りものである感情を抱えていつものTSUTAYAが遠い
遠目には宇宙のようで紫陽花は死後の僕たちにもわかる花
部屋干しの水蒸気たちに囲まれて眠る 命名とはこんなもの
強弱に分けるとすれば二人とも弱なのだろう ピオーネを剝く
公園を逆さにしたら深くまで一番刺さるあの木がいいな
風邪引きの体には鐘が吊されるゆえに幼い夕暮れを呼ぶ
レモンティーのレモンを二人とも食べて以来長らく雨が降らない

1首目、四角い天窓を手紙に喩えたのがいい。雲が流れていく感じ。
2首目、指先と知恵の輪の動きの美しさにしばらく見惚れてしまう。
3首目、ミルクティー色と表したところに、記憶の懐かしさが滲む。
4首目、TSUTAYAでは様々な人生や物語を借りることができる。
5首目、下句の直観が鋭い。紫陽花の球形は永遠に近い感じがする。
6首目、目に見えない水蒸気に包まれて、また生まれ直すみたいだ。
7首目、皮がツーっと剝ける感じ。弱であることの安心感もある。
8首目、一番高い木だろう。自分の身体に突き刺さるようで怖い。
9首目、身体が重たく感じられて、遠く幼い頃の記憶が甦ってくる。
10首目、何かをきっかけに何かが変ってしまう。偶然だとしても。

2021年2月12日、書肆侃侃房、1700円。

posted by 松村正直 at 20:49| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。