2021年02月12日

ナカムラクニオ『洋画家の美術史』


日本の近代洋画の歴史を16名の画家の作品や人生を通して描いた一冊。著者の考える「洋画」とは、次のようなものだ。

明治、大正期に西洋から日本に輸入され、独自に進化した「和制洋画」は、料理でいうと、カツレツ、カレーライス、コロッケ、エビフライ、あるいはビフテキとも似た「洋食」のような存在だろう。
「洋画」とは、明治時代以降「独自の進化を遂げたガラパゴス的西洋風絵画たち」を指すと考えていいのだろう。

登場する画家は、高橋由一、黒田清輝、藤島武二、萬鉄五郎、佐伯祐三、藤田嗣治、岸田劉生、坂本繁二郎、梅原龍三郎、長谷川利行、東郷青児、熊谷守一、曽宮一念、鳥海青児、須田剋太、三岸節子。

高橋由一の代表作「鮭」について、著者は「なぜ「新巻き鮭」なのか?」という問いを立て、次のように述べる。

実は江戸時代、絵画においても鮭のモチーフは人気だった。葛飾北斎も繰り返し描いている。幕末になると、大量の塩鮭が蝦夷地(北海道)から運ばれてくるようになり、鮭は庶民の食事として定番のメニューとなった。

図版には北斎の作品「塩鮭と白鼠」も載っており、それとの比較によって高橋の「鮭」の何が新しかったのかが浮き彫りにされている。実に鮮やかな解説だ。

絵画は大きく分けると「窓派」と「鏡派」の2種類ある。窓のように世界を切り取ったものと、鏡のように心を写し取ったものだ。

窓と鏡。おそらくこれは絵画にかぎらず、表現全般に当て嵌まることなのだと思う。

2021年1月30日、光文社新書、1120円。

posted by 松村正直 at 08:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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