2021年02月08日

島田修三歌集『秋隣小曲集』

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2017年から2020年までの作品493首を収めた第9歌集。
40年連れ添った妻を脳梗塞で亡くし、自らも癌の手術を受ける。

六肢を提げすずめ蜂飛ぶ日溜りにすずめが来ればすずめ蜂消ゆ
「ミスティ」の流るる古き理髪店に冷たき刃(は)もて咽喉(のみど)を剃らる
レタスパックの草臥れたるを皿に盛り何を養ふ若からぬ身の
桜鯛の可愛ゆき一尾をあがなひて妻待つごとき夕闇にまぎる
雲のやうに来たりて午後の感情はもうたくさんだ、たくさんだ、といふ
「きゃりーぱみゅぱみゅ」といふ舌嚙むやうな名も覚えしが近頃聞かず
妻と在りし日の集合住宅(マンション)に聞こえざりし水のしたたり声のくぐもり
妻が行き連れ立ちて行きひとり行くクリーニング店より燕の巣消ゆ
瑞典にわが知るグレタ二人をりひとり変人もひとり故人
夏(なつ)さんと思ひてをりしが夏(シャー)さんであるとぞ夏さん絣が似合ふ

1首目、自然界では可愛らしい雀の方がスズメバチよりも強い存在。
2首目、刃の冷たさに一瞬ひやっとする。志賀直哉「剃刀」の世界。
3首目、「草臥れ」という表記で「草」と「レタス」が響き合う。
4首目、「妻待つ」と「妻待つごとき」の間にある大きな落差。
5首目、胸の内に押し寄せてくる感情や思い出に押し潰されそうだ。
6首目、芸能界の流行りや人気の移り変わりの激しさを感じる。
7首目、一人になって会話や物音が消えたことで初めて気が付く音。
8首目、妻と過ごした時間とその後の経過が印象的に詠まれている。
9首目、女優グレタ・ガルボと環境活動家のグレタ・トゥーンべリ。
10首目、名札などに「夏」とある人が中国の方だったことを知る。

2020年11月25日、砂子屋書房、3000円。

posted by 松村正直 at 07:17| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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