2021年01月25日

映画「国葬」

監督:セルゲイ・ロズニツァ
オランダ・リトアニア合作

旧ソ連の指導者スターリンの国葬を描いたドキュメンタリー。

1953年3月5日のスターリンの死を報じる場面から始まり、東側諸国の首脳陣の弔問、葬儀、パレード、追悼集会、レーニン廟への安置までが克明に記録されている。

モスクワ周辺の群衆だけでなく遠くウラジオストクや、旧ソ連領のウクライナ、カザフスタン、アゼルバイジャン、リトアニアなど、民族も風土も生活も違う土地に住む多くの「ソ連人」たちが一様に悲しんでいる姿が映し出される。

それは、もともとプロパガンダ用に撮影された大量のフィルムを元に製作されたドキュメンタリーだからなのだが、悲しむ人々の様子に嘘や演技がある感じも受けない。

スターリンの棺が赤いことも印象に残った。赤い棺というものを見たのは初めてだ。パレードに随行する人々も、腕に赤い喪章を付けている。

追悼集会はフルシチョフの司会のもと、マレンコフ、ベリヤ、モロトフの三人が順に演説を行う。この三人がほどなく失脚または処刑になる運命を思うと、何とも複雑な気分にさせられる。

スターリンの個人崇拝や旧ソ連の体制批判をするのは簡単だ。けれども、例えば昭和天皇の大喪の礼もかなりのものだったと思う。

そしてもう一つ。この映画には単なる批判にとどまらない「何か」がある。ある種の美しさや感動が含まれていると言っていい。いや、そこに美しさや感動を覚えてしまう感性が私たちの中にあることに気付かされてしまうのだ。そこに、この映画の本当の怖さがある。

出町座、135分。

posted by 松村正直 at 19:32| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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