現代歌人シリーズ30。
2018年から2020年までの作品408首を収めた第7歌集。
滝壺に女は消えて悲しみし男の一首は地上に残る
食前の祈り英語は短くてきみより長く祈りて食べる
二泊三日を英語キャンプに過ごしたる息子帰りきてしばらく無言
大阪拘置所面会室3番
面会の椅子は低くて冷たくてアクリル板の汚れが目立つ
「ひさしぶり、誰だつたつけ」と言はれたるわれはふつつかな嫁として立つ
食用と鑑賞用を区切る石 鯉はそれぞれの生を泳げり
冷笑も共感も受け一輪となりて立ちたりフラワーデモに
不登校は悪くないといふ物言ひに悪意はなくて慰めもなし
前世はすずめと言ふ子 キリスト者のお前に前世なんてないのに
背伸びしてパンを差し出す子どもの手うつくしかりき息子に言はず
1首目、「関之尾滝」にまつわる伝説。時代を超えて歌だけが残る。
2首目、同じ祈りの言葉でも英語と日本語では長さが違ってしまう。
3首目、英語漬けの三日間を終えて疲れ切って憮然とした様子。
4首目、死刑判決を受けた容疑者にキリスト者として面会に行く。
5首目、入院中の義母を前に、嫁という立場を意識せざるを得ない。
6首目、鯉は自分の運命を知らない。人間も同じなのかもと思う。
7首目、性暴力の根絶を目指すデモ。「一輪となりて」がいい。
8首目、良いか悪いかという見方自体が既に問題を含んでいるのだ。
9首目、三句以下の強さと冷たさに、信仰を持つ者の厳しさを思う。
10首目、無意識に自分の息子の手と比べてしまったのだろう。
「自由」というタイトルに読む前は戸惑いを覚えたが、歌集にはさまざまな形で「自由」について問い掛ける歌が収められていて、タイトルの必然性を納得させられた。
息子に対する愛情の強さとともに、息苦しさも感じる一冊だった。
2020年12月15日、書肆侃侃房、2400円。