副題は「ナイル5000年の墓泥棒」。
毎日新聞社のカイロ特派員として3年間エジプトに赴任した著者が、盗掘と略奪(とロマン)に彩られたエジプト史を描いた本。初心者にも一通りの流れがよくわかる内容となっている。
旧約聖書に出てくるヨセフが、農作物の不作に備えて穀物を貯蔵するために作った倉庫がピラミッドである。五世紀頃にはそんな説が唱えられていたという。
古代の王墓にあった副葬品の金銀財宝に加え、中世以降、盛んに略奪されたのは「ミイラ」だった。(中略)身分の貴賤にかかわらず、それがミイラである限りは貴重な医薬品として欧州で高く売れたからだ。
エジプトの考古学者はヒエログリフを勉強しているため、表音文字と表意文字について詳しく、日本人が両方を使うことも知っている。
この本に載ってるのは過去の話だけではない。「いまも暗躍する盗掘者たち」という章もあり、多くの文化財が盗掘されて国外に流出している現状が記されている。ちょうど1月17日の読売新聞にも「コロナ苦境 盗掘に走る」「エジプト 急増2.6倍」という大きな記事が載っていて、現在進行形の話であることをあらためて感じた。
2020年8月20日、文春新書、880円。