写真家である著者は、2011年の東日本大震災をきっかけに東京から長崎へ引っ越し、夫と3人の子どもと暮らし始めた。近所の猟師から猪や鹿の肉をもらったことで狩猟に興味を持ち、肉食や命について考えるようになっていく。
もうひとつ、強烈な存在感の理由として思い当たることがある。それは、心臓や脚を台所で切り分けるときに、私の体もこうなんだろう≠ニ思わずにはいられないことだ。鹿や猪は哺乳類だから、人間と身体構造が近いのは当然といえば当然。
もう何頭食べたかわからないほど、獣を食べてきた。そもそもスーパーの肉ばかりを食べていたときには、何頭≠ネどと思ったことは一度もなかった。山の獣の命を食べるようになってはじめて、1頭や1匹(=1命)と認識するようになった。
もともと家族の風景として出産や死を撮影してきた著者が、狩猟や肉食、皮革処理などに引き付けられ、やがて「穢れ」や「キヨメ」の問題とも向き合っていく。実体験に裏打ちされた考察は、命の本質に触れていて深い。
2020年10月2日、亜紀書房、1600円。