2021年01月16日

原 武史『「線」の思考』


副題は「鉄道と宗教と天皇と」。

点でも面でもなく鉄道という「線」をたどりつつ、土地の歴史や人々の動きをじっくりと考察した8篇の論考を収めている。初出は「小説新潮」2018年から2020年発表。

著者の趣味である鉄道と専攻の政治思想史が融合した内容と言っていいだろう。特に皇室とキリスト教の関わりの深さが印象的だった。

明治から敗戦まで全国各地に配置された陸軍の部隊である師団の存在が、一九六〇年代までの炭鉱同様、地方都市の繁栄を維持していた面があることもまた確かだ。言い換えれば、戦後に師団が消えたことが、地方の衰退を招く一因となったのである。
日蓮が生きていた当時、現在の東京のあたりは、まだ湾が複雑に入り組む湿地帯だった。むしろ、浦賀水道を介して鎌倉とつながる安房のほうが、行き来がしやすく、政治の中心に近かったのである。
明治以降の皇室は皇室典範により男系の男子による皇位継承が定められた。(・・・)一方、天照皇大神宮教では女系の女子のによる教主の継承が続いている。
九州北部には、神功皇后を聖母としてまつる信仰が少なくとも中世からあった。だからこそ、近世になって聖母マリアを崇敬するカトリックをすんなりと受容し、弾圧されてもなお聖母信仰だけは捨てなかったのではなかろうか。

なるほど、どれもハッとさせられる指摘ばかりだ。他にも、千葉県には「四一〇メートル以上の山がなく、全都道府県のなかで最も地形がなだらか」であることなど、学ぶことが多い一冊だった。

2020年10月15日、新潮社、1800円。

posted by 松村正直 at 13:29| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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