2021年01月15日

永田淳歌集『竜骨(キール)もて』

nagatajun.jpg

2007年から2014年までの作品499首を収めた第3歌集。

ヒオウギの咲ける傍えに週に二度黄のゴミ袋四、五個の並ぶ
暁近く岩倉川の砂州の上を鹿の四頭渡りゆく見ゆ
死の後に死の影とうはなくなりぬ実家の庭に転がる青柿
秋の陽の傾きながら差す湖に櫂とふたりの魚釣る時間
着物の中は鶏がらだ 会場に誰か言いにき母の立てるを
杉原でなく恂{がとう空想の許されてあり薄き珈琲
一日の娘の視力を補いて後(のち)に眼鏡は机上に置かる
灯を点すごとくにゲラに朱を入れつ沫雪の降る午の窓辺に
悔いのなき人生などはつまらなし中二数学を子に教えつつ
我が知らぬ佳きこと数多あるらしくいいねいいねの念仏続く

1首目、週2回の燃えるゴミの日。ヒオウギとの取り合わせがいい。
2首目、とても美しい光景。映像を見ているような静謐さを感じる。
3首目、「死の影」という言葉は、確かに生者に対して使うものだ。
4首目、父と息子だけの時間。「櫂」という名前がよく効いている。
5首目、人間とはこんなひどい言葉も言ってしまえる存在なのだ。
6首目、もし恂{邦雄が夭折していたら短歌史はどうなっていたか。
7首目、一日の仕事を終えて、眼鏡もゆっくりと休んでいるみたい。
8首目、ところどころに赤い色が灯る。目がちらちらする感じ。
9首目、悔いのない人生なんて、ほんとうにあるのだろうかと思う。
10首目、「念仏」が強烈だ。SNS上の「いいね」に対する皮肉。

2020年7月1日、砂子屋書房、3000円。

posted by 松村正直 at 08:25| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。