2021年01月11日

池田はるみ歌集『亀さんゐない』


2015年から2020年までの作品を収めた第7歌集。

足あとがつくほど降つて 足跡を消すほど降つて まだ雪止まぬ
まだ青い老人われはつもりたるおち葉のうへをしづかにあゆむ
乗り込めばかすかに水の匂ひせり 今朝地下鉄に秋が届きぬ
ああわれも独り言いふこのごろは人の気持ちが分からないから
肩、腰をほぐされゆけばつぎつぎと城が落ちたといふ感じせり
高齢にあらぬエネルギー発したる草間彌生をわれは愛さず
「日本出身横綱」などと造語され国を負はさる稀勢の里はも
洋服の古きをならべ売つてゐるメルカリとちがひ現物にして
一歳の食欲盛ん 手づかみでひとりで食べるうどんが美味い
たかだかと呼び出しのこゑ伸びてゆく畑のやうな体育館に

1首目、雪の積もっていく様子を足跡の描写でうまく表現している。
2首目、まだ初心者の老人という感じ。滑らないように慎重に歩く。
3首目、地上と違って季節感が見えにくいが、匂いで秋を感じる。
4首目、独り言が増える理由を自分なりに分析しているのが印象的。
5首目、身体のこわばりがほぐれるのを城の陥落に喩えたのが独特。
6首目、「われは愛さず」がいい。世間的な風潮には同調しない。
7首目、モンゴル出身横綱に対する言い方。国籍など関係ないのに。
8首目、門前仲町の縁日の歌。中古品を売っている点では同じだが。
9首目、見るだけで美味しさが伝わる食べ方だ。大人にはできない。
10首目、大相撲の無観客開催の様子。無人の客席が段々畑みたい。

2020年9月3日、短歌研究社、3000円。

posted by 松村正直 at 08:11| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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