食糧を現地調達する「サバイバル登山」で知られる著者のエッセイ集。結婚して三人の子が産まれ、犬や猫や鶏を飼う生活が綴られる。
随所に記されている人生哲学には共感する部分が多い。
何かをするには、別の何かは犠牲になる。自分の選んだ道が自分にとって最良なのか、比較的良いのか、ぼちぼちなのかを、別の人生と比べることはできない。
私の信条は「なにも経験しない平坦な人生より、良いことでも悪いことでも色々経験したほうがいい」である。
車も携帯電話も持たず、エアコンの設置にも頑なに反対する。さらには、こんな宣言までしてしまう。
「俺は今後できるだけ庭でウンコすることにする」
全家族(妻、長男、次男、長女)が夕食に集まったときに宣言した。子どもたちはしばし動きを止めた程度の反応しかしなかった。
いやはや、これはとても真似できない。
服部家では採卵目的で鶏を飼育し、人工孵卵器を使って雛も育てている。生れたばかりの雛は、まだオスとメスの区別がつかない。
オスのニワトリは成鶏になると「時の声」を上げるようになる。日本語でコケコッコーというやつだ。最初はまだへたくそで、ココッコーなどと言っているが、これが聞こえたら、週末にはもうトリ鍋にするしかない。若オンドリにとって「時の声」は自分への死刑宣告である。
卵を産まず、鳴き声を立てるだけのオスには、殺される運命が待っているのだ。
2020年9月25日、中央公論新社、1650円。