2021年01月06日

宮崎郁雨『函館の砂』


副題は「啄木の歌と私と」。

石川啄木の函館時代の友人で、多額の資金援助をし、また啄木の妻の妹と結婚するなど、深い関わりを持った宮崎郁雨。この本は、彼が晩年の75歳の時に出版した回想録である。

啄木との関係においては常に受身な印象が強い宮崎だが、啄木のすべてを受け入れていたわけではなかった。とても真面目な性格だったようで、啄木の女性関係や借金問題に対して厳しい批判も書いている。

後年の彼の恋愛観の変貌と一部の行状に就ては、或はこれを彼の人間的成長と見、思想的伸展とする見解も当然成立つだろうが、私は彼の境遇と心情の如何に拘わらず必ずしも同情的な好意は持てない。
次々と借金を重ねて行った彼の無反省的行動の裏には、実際には必須の事情が伏在したのだけれども、こうした彼の処世概念と、寺育ちという特殊な生態の生んだ自助心の稀薄とが大きく影響して居たのではあるまいか。

その一方で、「性情の対蹠的な私は、自身には到底持ち又は行い得ない不縛奔放の彼の思度や行為の持つ不思議な魅力に引かれて」という記述もある。啄木に対する愛憎半ばする思いが滲みつつも、全体として深い理解と愛情を感じる一冊だと思う。

1960年11月5日、東峰書院、380円。


posted by 松村正直 at 17:39| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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