2021年01月03日

小林真代歌集『Turf』(その2)

続いて後半から。

骨になりこの地に残るといふことのしづけさにけふの日が差してゐる
夜が先か雪が先かと思ひつつカーテンを閉ぢ灯りを点す
ふるさとをきつと頼りにしてほしい 皮剝けばなほ白き大根
昼に食ふはずが夜食ふサラダうどん嗚呼昼の味がすると思へり
あかりひとつ消せば隣の部屋の声くきやかになるホテル東洋
脚立返しに来ましたと呼ぶ塗装屋の声が足場の底から聞こゆ
産みし子が遠くの街ではたちになる今日をたのしむビール冷やして
足尾銅山鉱毒事件をおほふ泥 除染といふ語新しからず
用水路でザリガニ獲つてよろこんで弟はまだ姉のものなりき
自分のことばかりしてゐし一日の日記書くときひとをおもひぬ

1首目、死後の自分の骨に日が差しているような寂しさと安らぎだ。
2首目、上句の言い回しが独特。夕暮れに雪が降り出しそうな気配。
3首目、進学を機に離れる子にも、いつか故郷が心の拠り所になる。
4首目、昼食べても夜食べても同じサラダうどんだが、何か違う。
5首目、寝ようと思って灯りを消すと、隣の部屋の音が気になる。
6首目、「足場の底から」がいい。作業現場の空間が感じられる。
7首目、息子に対する祝いであると同時に、自分への祝いでもある。
8首目、「除染」が新語ではなかった驚き。歴史は繰り返される。
9首目、子どもの頃の思い出。「姉のものなりき」の断定がいい。
10首目、自分のことだけでは心は満たされないのかもしれない。

2020年9月26日、青磁社、2500円。

posted by 松村正直 at 10:01| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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