感染が止まぬ九月の半年前「9月入学」主張されにき
向山文昭
春先に新型コロナウイルスの感染対策として、大学の「9月入学」への切替が話題になった。今から思うとだいぶ見通しが甘かったのだ。
開いたらもう戻れない朝顔が見せる花芯の深きが白い
高橋ひろ子
朝顔は明け方に一度咲いたら、その日の昼頃にはもうしぼむだけ。花の中心の奥に見える白い部分は、強い決意の表れのようでもある。
いくつもの会社を渡りきし図面大きく赤字で納期を記す
吉田 典
金属加工の会社で働く作者。おそらく単価が安く、あまり儲けのない仕事なのだろう。その上、納期が短くても遅れるわけにいかない。
「どちら様もようござんすね」と見回してゴミの袋を閉じる火曜日
丘村奈央子
サイコロを使った丁半博打でよく耳にする台詞。いったん袋を閉じた後でまだゴミがあったとなると面倒なので、念入りに確認するのだ。
「枯れ木」から「歌歴」に変換する間(あわい)小さな花と思いぬ歌を
山田恵子
昔話の「花咲か爺さん」をイメージさせる展開だ。電子機器の文字変換は、時おり意外な言葉と言葉を結び付けてくれる楽しさがある。
九十四年で閉園となる豊島園あと六年で百年なのに
本田 葵
1927年に開園して今年8月に閉園した豊島園。下句の呟きが面白い。そんなこと言ってもという感じだが、確かに気持ちはよくわかる。
送り火の燃えつきかけて死者たちは何からこの世を忘れはじめる
加茂直樹
お盆に帰ってきた死者の魂をあの世へ送る行事。下句が印象的だ。数多くある現世の記憶のうち、何から忘れ始め、最後に何が残るのか。