2020年12月26日

竹下大学『日本の品種はすごい』


副題は「うまい植物をめぐる物語」。

タイトルの付け方が気になるが、内容はいたって真面目。花卉のブリーダー(育種家)である著者が、ジャガイモ、ナシ、リンゴ、ダイズ、カブ、ダイコン、ワサビの7種類の植物の品種改良の歴史を記した本である。

とにかく知らないことがいっぱい載っていて面白い。時代によって変わる品種の流行や長年にわたって研究を続ける人々の努力など、育種の奥深さがよくわかる。

(ジャガイモの)出荷量は約一九〇万トンである。このうち、カルビーの使用量は約二七万トン、国内生産量の一割を超えている
(ナシの)「新高」の名の由来は、当時日本の領土であった台湾最高峰の山、標高三九五一メートルの新高山(台湾名玉山)からとられた。
(リンゴの「ふじ」は)二〇〇一年に世界生産量ナンバーワン品種に認定されて以降、今日にいたるまで世界各国で栽培面積を広げ続けている。一説によると。「ふじ」の世界シェアは三〇%にも達しているそうだ。
すべての作物において、早生化は重要な育種目標となっている。作物の旬がどんどんと前進してしまうのは、初物ほど高く売れるという市場原理が強く働き、そこに大きなビジネスチャンスがあるからだ。
中国、朝鮮半島、シベリア経由で日本に入ってきたカブだが、なぜか中国では根菜としての改良は進まず、作物としての地位も高まらなかった。一方で、葉を食べる作物としては目覚ましい進化を遂げた。この作物こそがハクサイである。
ダイコンの消費量については、日本はいまだに世界一である。それも二位以下に圧倒的な差をつけてだ。その量はじつに、世界の約九割を占めているとされるほど。
人口一〇〇万人を超えて世界最大の都市になっていた江戸では、玄米を精米した際のぬかが大量に出るようになったため、ぬか漬けもまた庶民の口に入るようになったのである。
ワサビは数少ない日本原産の野菜であるとともに、日本オリジナルのスパイスである。

毎日食べている野菜や果物だけれど、こうして歴史や生産量などを具体的に示されると、一つ一つの食材が何ともいとおしく思えてくる。

2019年12月25日、中公新書、900円。


posted by 松村正直 at 10:28| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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