「まひる野」所属の作者の第1歌集。
2012年から2020年までの作品446首を収めている。
第7回現代短歌社賞受賞。
履歴書の写真のような顔をして飛んでいるのにかもめはきれい
臨月のともだちへ手を振っているこのようにたまに灯台になります
お茶漬けのあられ浮いててばかみたい会いたさはひどく眩しい梯子
鎌倉のだいぶつさまの背(せな)にある窓ひらきたし頰杖つきたし
さらさらと笑って揺れて雨の日はよく竹になる女ともだち
こどもたちつららを食べる雪を食べる花が咲いたら花食べるべし
にがうりを塩で揉みつつ雨降りのゆうべを思う存分ひとり
おにぎりを二つ食べればあたたかく三つ食べればこの世のからだ
セフカペンピボキシル錠ふんわりと桜色して菌みなごろし
グラタンのホワイトソースに沈みいる鱈や小樽や風邪のおもいで
1首目、発想がおもしろい。畏まったような澄まし顔をしている。
2首目、笑顔で手を振っているけれど、内心は複雑な気分なのだ。
3首目、実景描写から三句のつぶやき、下句の箴言的なフレーズへ。
4首目、あの高い窓の内側に座って外を見たら、気持ち良いだろう。
5首目、竹林の竹がさざめく感じに似ている。皮肉っぽい言い方。
6首目、春になったら花を食べる。そんなふうに生きられたらいい。
7首目、「思う存分」に動詞ではなく「ひとり」が付くのが印象的。
8首目、結句「この世のからだ」で日常とは別次元の歌になった。
9首目、見た目は可愛らしい錠剤だけれど、やることはえげつない。
10首目、下句の三つがごく自然に並びつつ読み手を回想へと導く。
2020年11月6日、現代短歌社、2000円。