2020年11月26日

「塔」2020年11月号(その2)

幻の大間鉄道中止となり昭和十八年のままのアーチ橋
                   星野綾香

下北半島の大間町へ伸びる予定だった鉄道路線。使われることなく終ったアーチ橋は、戦時中のままで時間が止まってしまったみたいだ。

「明子さんがいいと言ふから安心や」あんなにあつさりホームに入りて
                   広瀬明子

義母を施設に入れた時のこと。安心して全面的に頼りにしている言葉を聴き、かえって騙しているような切ない気分になったのだろう。

わたくしとルビをふるとき私の上下に空いた隙間が白い
                   竹内 亮

漢字1字に対してルビ2文字までは問題ないが、それ以上だと漢字の上下が空いてしまう。「わたくし」は4文字なので、空白が目立つ。

ドアミラーの中に消えゆく姫女菀渋滞が少し短すぎるよ
                   鈴木健示

道端に咲くヒメジョオンを、車のミラーの中にぼんやりと眺めている。もっと見ていたかったのに、車列が早くも動き始めてしまった。

IHの薄さばかりを繰り返す母に教える湯の沸かし方
                   中井スピカ

認知機能が衰えつつある母なのだろう。ガスレンジは危ないのでIHに替えたのだが、使い方をなかなか理解してもらえないもどかしさ。

親戚の爺さん婆さん元気なりみんな飛沫をとばして喋る
                   逢坂みずき

マスクして飛沫を飛ばさないことが求められる世の中で、そんなことは意に介してないお年寄り。その大らかさに何だか励まされもする。


posted by 松村正直 at 07:02| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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