幻の大間鉄道中止となり昭和十八年のままのアーチ橋
星野綾香
下北半島の大間町へ伸びる予定だった鉄道路線。使われることなく終ったアーチ橋は、戦時中のままで時間が止まってしまったみたいだ。
「明子さんがいいと言ふから安心や」あんなにあつさりホームに入りて
広瀬明子
義母を施設に入れた時のこと。安心して全面的に頼りにしている言葉を聴き、かえって騙しているような切ない気分になったのだろう。
わたくしとルビをふるとき私の上下に空いた隙間が白い
竹内 亮
漢字1字に対してルビ2文字までは問題ないが、それ以上だと漢字の上下が空いてしまう。「わたくし」は4文字なので、空白が目立つ。
ドアミラーの中に消えゆく姫女菀渋滞が少し短すぎるよ
鈴木健示
道端に咲くヒメジョオンを、車のミラーの中にぼんやりと眺めている。もっと見ていたかったのに、車列が早くも動き始めてしまった。
IHの薄さばかりを繰り返す母に教える湯の沸かし方
中井スピカ
認知機能が衰えつつある母なのだろう。ガスレンジは危ないのでIHに替えたのだが、使い方をなかなか理解してもらえないもどかしさ。
親戚の爺さん婆さん元気なりみんな飛沫をとばして喋る
逢坂みずき
マスクして飛沫を飛ばさないことが求められる世の中で、そんなことは意に介してないお年寄り。その大らかさに何だか励まされもする。