
2009年から2015年までの作品440首を収めた第7歌集。
信仰について、山梨について、生死についての歌が多い。
蠅ほどのちいさな蜂を遊ばせてはくちょうそうが微かにゆれる
立て板に水、おしゃべりな人あれど和巳は多く語らざりけり
電話にて声のみ知りて親しめる雪の横手の友の明るさ
キリシタン大名有馬晴信の流謫(るたく)され斬首(ざんしゅ)され眠れるところ
特急通過を待つ間のありてひなびたるホームに仰ぐ山の近しさ
連れ合いは欠けてはならぬ人のこと五風十雨の日々がすぎゆく
ろうそくに移さんとしてマッチする五秒がほどのみじかき焰
死はいずれ人を分かてど今日の日の餐(さん)に与る灯の下に寄る
軒下に立てかけてある竹箒 生前死後という時間あり
香りにもほのかなさくら色あらん白湯に浮かべるはなびら二つ
1首目、繊細な描写。漢字で書くと「白鳥草」ではなく「白蝶草」。
2首目、早稲田祭の講演の後の懇親会での高橋和巳の姿。
3首目、声だけを知る間柄。横手市はかまくらで有名なところ。
4首目、肥前の藩主だった有馬晴信は、遠く山梨で死んでいる。
5首目、何でもない場面だが、のどかな気分がよく出ている。
6首目、「五風十雨」は天気が順調で世の中が安泰なこと。
7首目、夭折した立原道造をしのぶ歌。短く燃え尽きた命。
8首目、「死が二人を分かつまで」という結婚式の言葉を思う。
9首目、飯田龍太の居宅「山廬」を訪れた際の歌。主のいない家。
10首目、香りに色があるという発想が美しい。
「身延線常永駅」と題する一連5首がある。ここは山梨大学医学部附属病院の最寄り駅。母が入院していた時に使った駅なので懐かしい。
2020年7月20日、現代短歌社、2600円。