副題は「愉しい日本語文法のはなし」。
学校文法の話から始めて、新しい言語学の知見を随所に織り交ぜながら、文法の面白さや奥深さについて記した本。体系的に記述されているわけではないが、非常に教えられるところの多い一冊であった。
学校の文法とは、古文(文語)を理解するために超実用的に作られているものであって、それは今でも変わっていない。
「いま、ここ」にあることは、言語以外でも表すことができる。指でさすこともできるし、「フエエ」と叫び声を上げて注意を向けることもできる。だが、「いま、ここ」にないことまで表現できてしまうのが言葉のすごいところだ。この機能のおかげで、嘘八百もつけるし、様々な物語を創作できる。
言語化されていないものは省略されているのではない。最初からないのだ。
言語の使用において、意味上の主語のデフォルトは自分自身、つまり一人称である。話し手から見て、自分自身は見えないから言語化されない。
引用部分では、「一度その行為が起こった」ことを表す文脈でも、タ形ではなく、ル形が使用されている。タ形は現実の時間軸にその出来事を位置づけるので、現実的になるが、ル形が使用されることによって全体として非現実的な印象になっている。
著者の語り口はいつも歯切れが良い。もっと、いろいろ読んでみたいと思わせてくれる。
2020年8月30日、光文社新書、840円。