2020年10月07日

「塔」2020年9月号(その1)

空のいろ少しかはりて内房から外房に出るマリン・ドライブ
                    安藤純代

房総半島の海岸線をドライブしている場面。東京湾側と太平洋側とで「空のいろ」が違うという発見が印象的だ。開放感が伝わってくる。

プラモデルのやうに待機の飛行機の並ぶ空港、遠くなりたり
                    木村輝子

新型コロナの影響で休止となった路線が多く、駐機場にたくさんの飛行機が止まっている。結句、海外に住む娘や孫のことを思うのだ。

もう父は助からないと大泣きしそれから夕餉の仕度する母
                    紺屋四郎

下句がいい。夫の容態が悪いことを医師から聞いて大泣きする母。放心したような状態で、それでもいつも通り夕飯の準備をするのだ。

引越しの前後のうたは越えてしまふ動詞は三つまでの約束
                    岡本伸香

短歌の入門書にはよく「一首に動詞は3つまで」などと書いてある。でも、引越しは次から次へとやることが多くて、三つに収まらない。

はねのある餃子を焼きてはねのなき母すわらせる白きゆうぐれ
                    澄田広枝

「はねのなき母」がいい。人間に羽のないのは当り前だが「はねのある」との対比でこう表現されると、年老いた母の状態が想像される。

これに容れてもうみえざればゴミといふ概念になる大根(だいこ)の皮など
                    千村久仁子

包丁で剥くまでは大根の一部であったものが、ゴミ入れに入れた途端に「ゴミ」へと変ってしまう。人間の認識のあり方が鋭く描かれた。

なかなかに三国にならぬ「三国志」三巻読み終へあと十巻に
                    潔ゆみこ

上句に思わず笑ってしまう。大作なので、誰もがよく知る有名なシーンにはなかなかたどり着かない。根気よく読み続けられるかどうか。

おすすめの物件よりも国道と線路に近き場所が落ち着く
                    山ア大樹

一般的には国道や線路近くの物件は騒音もあって敬遠されがち。でも、何を優先するかは人によるし生まれ育った環境によっても違う。

posted by 松村正直 at 07:54| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。