白じらと乱るるかもめ又遠く立ちて対へり冬の稲妻
『静かなる意志』
野の低きはてにときなくはためきてはがねの色の一つ稲妻
『歴史』
カナリヤの雛はとまり木に身をよせて今宵しきりに光る稲妻
『冬の銀河』
降ることもあらぬ夜毎を野をおおう靄に光りて青き稲妻
『喚声』
試掘櫓立ちて町ありホルストの地平に蒼き間なき稲妻
『異邦者』
羽化とげし幼き揚羽窓にいて雨降らぬ夜を間なき稲妻
『黒豹』
この関りに生き行くかぎり秘めむことば眼覚めてありき梅雨の
稲妻 『遠く夏めぐりて』
キリがないので、これくらいにしておこう。
結句の最後が「稲妻」で終っている歌に限っても、こんなにある。
自伝&自歌自註の『歌い来し方』にも、稲妻に関する記述がある。
遠い稲妻が、しきりに雲を染めて地平にはためいていた。暗い銅の色である。梅雨が明けると草丘の家のめぐりに、夏野を思わせる夜ごとの靄が立ち沈んだ。
あかがねの色に照り合ふ稲妻に茫々と野の夜靄立ちつつ
その稲妻が落雷となるときがあるのか。鋭いひかりが雲を走るが、音は聞えない。
むかひ立ち吾が息苦し音もなく野の遥かにし落つる稲妻
近藤が稲妻の光のなかに見ていたものは、はたして何だったのか。
歌を読みながら、そんなことを考えている。