2020年08月28日

不来方

朝日新聞「折々のことば」(鷲田清一)に啄木の歌が引かれている。


 P1070968.JPG


不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心

国語の教科書にもよく採られている有名歌だが、「不来方」の部分の読みに注目した。

「不来方」は盛岡の雅称。自分は何者か、何になるのか。その漠とした不安もそこには託されていたかも。

地名・固有名詞である「不来方」に意味を持たせる読みは、以前はあまり一般的ではなかったように思う。例えば、上田博『石川啄木歌集全歌鑑賞』(2001年)では、

不来方のお城―盛岡城とも呼ばれた南部藩の居城。明治維新後廃城。

と書かれているだけだ。

それが、近年少し風向きが変わってきた。
小池光『石川啄木の百首』(2015年)では、

「不来方」の地名がよく効いている。ふたたび来ることのない方。お城が別の名前だったなら啄木はこうは詠まなかったろう。もう二度と来ない、早熟な青春だったから十五歳のこころは空に吸われるのであった。

と、「不来方」にかなり力点を置いた読みを展開している。そう言われてみると、確かにこの歌において「不来方」はかなり決定的な役割を果たしている気がする。


posted by 松村正直 at 07:48| Comment(0) | 石川啄木 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。