2020年08月20日

加藤聖文『「大日本帝国』崩壊』


副題は「東アジアの1945年」。

1945年8月15日の敗戦は東アジア各地にどのような影響をもたらしたのか。現在の「日本」国内だけでなく、かつての「大日本帝国」支配下各地の状況を詳しく検証した一冊。

「東京」「京城」「台北」「重慶・新京」「南洋群島・樺太」における敗戦とその後の経緯が細かく描かれている。私たちは8月15日を戦争の「終わりの日」という見方で捉えることが多いが、実はそれは大日本帝国崩壊の「始まりの日」でもあった。

朝鮮における南北分断国家の誕生、台湾における二・二八事件と国民党政府による支配、中国における国共内戦と中華人民共和国の成立、ソ連におけるシベリア抑留。いずれも8月15日から始まった歴史の中で起きたことである。

さらにそれは、現在まで続く東アジアの緊張関係を生み出した原因ともなっている。

八月十五日正午、昭和天皇による玉音放送がラジオによって流された。放送は朝鮮、台湾、樺太、南洋群島、さらには満洲国でも流された。この放送は、天皇が「帝国臣民」に向かって初めて直接語りかけたものであったが、語りかけた「帝国臣民」はすでに「日本人」だけになっていた。「内鮮一如」「一視同仁」といったスローガンのもとに皇民化され「帝国臣民」となっていた朝鮮人や台湾人やその他の少数民族は含まれていなかったのである。

この時点で、早くも戦後の日本が抱える大きな問題が始まっていたわけだ。現在の「日本」の範囲に限定して戦前の「大日本帝国」の問題を考えようとすれば、当然抜け落ちてしまう部分が多くある。

東アジアには現在もなお解決されずに残っている様々な問題がある。そうした問題を考える上でも有意義な視点をもたらしてくれる本だと思う。おススメ。

2009年7月25日、中公新書、820円。


posted by 松村正直 at 09:34| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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