目と鼻の先にひとりで住んでいるおとうとされど会う用事なし
廣野翔一
ふるさとを離れた地で、偶然近くに住んでいる兄弟。でも、お互いに大人なので、兄弟と言っても別に頻繁に行き来するわけでもない。
俊太郎が今日出ていったと電話せりかつてわが子に去られし
母に 柿野俊一郎
息子が家を出て行ったことを母に告げる作者。そんな作者もかつて母の家から出て行った。「俊一郎」「俊太郎」の名前にも味がある。
ずじゅうかん頭重感あり低気圧ていきあつなりもうすぐ雨が
森祐子
低気圧が近づいていて頭が重く感じるのだろう。同じ言葉をひらがなと漢字で繰り返しているところに、その体感がよく滲み出ている。
発言者だけがマイクをオンにして助け船なき会議は続く
竹田伊波礼
最近多くなったオンライン会議。発言者以外はみなマイクをオフにしていて、誰も言葉を挟まない。発言する人の孤独な様子が際立つ。
一夜だけ泊まった君の部屋壁に君以外知らん集合写真
イキヨルニ
君の友人や同級生が大勢写っている写真。自分の知らない過去の時間や人間関係が君にあることを、あらためて突き付けられてしまう。