2020年08月18日

「塔」2020年8月号(その2)

今はまだ若いからとふ概念の医師とわれとに架かる吊り橋
                     澄田広枝

作者はもう自分が若いとは思ってないのだろう。でも若さは相対的なもので、医師から見れば「まだ若い」。お互いの認識にずれがある。

「ひよこの餌」と検索すれば餌となるひよこの姿が混じる
家居に                  穂積みづほ

ひよこに与える餌を調べようと検索したら、爬虫類や猛禽類の餌となる冷凍ひよこの画像も出てきてしまったのだ。その驚きが伝わる。

東山魁夷が五月に逝きにしと知りてなにゆゑわれは喜ぶ
                     西山千鶴子

東山魁夷の作品には「道」「緑響く」など青や緑の色彩の初夏を感じさせるものが多くある。おそらく好きだった季節に亡くなったのだ。

一人ずつ小さな枠におさまってニワトリ式に授業を受ける
                     松岡明香

オンライン授業の様子。分割された画面に映る学生の姿をケージの中のニワトリに喩えている。やはり教室で授業を受けたいのだろう。

夏服のかるさに腕をとほしつつはしやぎたり子にはじめての夏
                     浅野大輝

まだ1歳にならない子が、初めて迎えた夏。薄く軽くなった服を着せられて、ご機嫌なのだろう。子の喜ぶ様子を見る親の方も嬉しい。

引く指にひたと絡める透明な海老の背腸のつつましき筋
                     佐々木美由喜

海老の下処理で背わたを取っているところ。描写が実に丁寧で、作業の様子がよく見えてくる。まるで生き物の解剖しているみたいだ。



posted by 松村正直 at 08:09| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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