外された私の顔が置いてあるテーブルの上のマスクの窪み
河野美砂子
上句だけ読むとギョッとするが結句まで来てマスクの話だとわかる。マスクの窪んだ部分の形に自分の顔の凹凸が写し出されているのだ。
風雪の果ての五月の谷奥に巨木というは不愛想に立つ
関野裕之
下句がいい。長い歳月を重ねた巨木は愛想を振りまいたりせずに立っている。厳しい冬が終わって、巨木がまた新たな季節を迎えるのだ。
一日中この格好だよ、いやマジで フェイスシールド笑顔で
かぶる 佐藤涼子
仕事でフェイスシールドを着用する人が自虐的に語る台詞に臨場感がある。最初は違和感があったことも次第に日常の風景に変っていく。
買い物に出でし夫は二度戻るまずエコバッグ次にはマスク
橋本成子
今はこの二つを忘れると買い物の時に困る。普段はあまり買い物をする機会がないのか。律儀に二度戻って来るところに夫の性格も滲む。
口笛を家の中で吹かないで何度も子に言うコロナ禍の日々
矢澤麻子
学校が休みになって一日中家にいる子ども。家に籠っているとストレスが溜まるので、口笛の音も気に障ってしまう。誰も悪くないのに。
布団干しまな板干してそのほかに何を干そうか考えている
山西直子
布団とまな板の二つを干したことで、何だか他のものも干したくなってきたのだ。きっと天気も良かったのだろう。干したい欲が高まる。