副題は「日本ソウルミート紀行」。
さまざまな肉の現場を訪ねて、食べること、生きることについて考察した全10篇のノンフィクション。「羊」「猪」「鹿」「鳩」「鴨」「牛」「内臓」「馬」「すっぽん」「鯨」が取り上げられている。
ここ数年、私は捕鯨や狩猟、食肉の問題について関心を持っているので、良い本に巡り合ったという感じがする。
食べることは、身体のなかに入れること。自分の身体を使って敬意を払うということ。
「肉にも旬がある」
野生の肉は、自然環境と季節の移ろいの産物である。また、産地や扱う人間によって、質のよしあしも異なる。
流通価格を決める格付けでは、短角牛はせいぜいいA2(最上級A5)止まり。牛肉の格付けを決めるにあたって、サシの入り方が重要な要素とされているからだ。
豚のトントロの例も記憶にあたらしい。それまで豚の喉周辺の肉は、とくに注目されてもいなかったが、誰がつけたのか、トントロという名前がついて売られるようになった。
北海道、島根、埼玉、石川、東京、熊本、静岡、千葉など、各地の生産者の語る話はどれも印象的だ。命と向き合う仕事の奥深さをを強く感じた。
2020年7月15日、文藝春秋、1500円。