2012年から2019年までの作品308首を収めた第1歌集。
ストローを刺してあふれるヤクルトの、そうだよな怒りはいつも遅れて
湖も掬えば水になることを告げてあなたは夕景に立つ
スーパーの青果売り場にアボカドがきらめいていてぼくは手に取る
触れるとききみに生まれる紫陽花もふくめて抱いていたかったのに
自動販売機を積んで行くトラックと心もとない四月のぼくと
見っけた、と小さな声で告げられて振り返ったら満開である
けん玉のじょうずな子ども見ていたら大技っぽい技が決まった
まぶしくて見るとガラスで市役所の一面だけにさしてる朝日
こしあんの方が好きって言いづらいこの場の空気どうするかなあ
よくわからない盆踊り 適当でええねんときみが適当におどる
1首目、三句の読点を打つつなぎ方や「そうだよな」の挿入が巧み。
2首目、てのひらに掬うと、青い湖は透明な水になってしまう。
3首目、買う予定はなかったのだが、煌めき具合につい手が伸びる。
4首目、「紫陽花」がいい。躊躇いや期待や不安などの揺れる感情。
5首目、四月は新学期や新生活の始まりの季節。あてどない気分。
6首目、「見つけた」でなく「見っけた」。満開の笑顔が見える。
7首目、「大技っぽい」がいい。けん玉に詳しいわけではないので。
8首目、認識の順序に沿って丁寧に言葉が組み立てられている。
9首目、つぶあん派ばかりの状況。好みを言うのも簡単ではない。
10首目、盆踊りは見よう見まねで踊るもの。それでも何とかなる。
2020年7月30日、左右社、1800円。