
副題は「ポロシリ庵雑記帖」。
2012年1月16日から2015年12月30日まで、十勝毎日新聞の「編集余禄」に連載された248篇を収めたもの。
北海道の十勝で農場を営む著者ならではの、スケールの大きな話がたくさん出てくる。
小麦まきが終わった。面積は20ヘクタール余。5日かかった。整地は主に夜。ロータリーハローを装着したトラクターは100馬力。
今年の私の農場の収穫量は、小麦120トン、ジャガイモ200トン、タマネギ33トン、ナガイモ85トン(春掘りを含む)、ニンジン300トン。
都会とは全く違う生活。その毎日を想像するだけで楽しい。
こうした暮らしをもとに短歌を詠んでいる著者にとって、現代の短歌は物足りなく感じられるようだ。
私は頭のてっぺんで詠んだ、貧血の蚊の鳴き声のような歌には興味がない。
歌壇を眺めると、気の抜けたサイダーのような作品が目立つ。
こんな手厳しい批判の言葉がならぶ。こうした言い方に反発を覚える人もいるだろうが、時田の信念は揺るがない。
そんな著者が自らの代表作〈獣医師のおまへと語る北方論樹はいつぽんでなければならぬ〉について記している話が味わい深い。
当時の私は30代前半。まだまだアンチャンだったからこのように詠えたのだが、70歳近くなった今は、とてもこのようには詠えない。/潔く立つ〈いつぽん〉の樹は格好いいが親しみが薄い。2、3本が寄り添うように立っているほうが、心が和む。「人」の「間」と書いて「にんげん」だ。〈いつぽん〉の樹の精神も大切だが、人はそれだけでは生きられない。
厳しい自然の中で生きてきた人の実感がにじむ言葉だ。
2017年4月20日、十勝毎日新聞社、1500円。