2020年08月04日

「塔」2020年7月号(その3)

忘れもののようにぽかんと池はあり水面に春の雲を浮かべて
                      森川たみ子

何とものどかな光景。「忘れもののように」という比喩が効いている。あっ、こんなところに池があったんだという感じ。語順もいい。

花びらにあるのだらうか筋肉が さくら一輪ゆつたり開く
                      船岡房公

つぼみが開くのはどういう仕組みになっているのか。動物と違って筋肉があるわけでもないのに。素朴な疑問が桜の美しさを引き立てる。

ほろ酔いできみが繋いでくれた手をやっぱり離す築地場外
                      伊藤未来

築地場外市場でご飯を食べた後だろうか。手を繋がれて嬉しかったのだけど、恥ずかしい気もして離してしまう。その微妙な心の動き。

ハマスホイの絵よりしずかな週末の銀座は春を待ちつつねむる
                      小松 岬

静謐な室内風景画で知られるデンマークの画家ハマスホイ。外出自粛によって人通りの減った銀座の美しい街並みの様子が目に浮かぶ。

よろよろとのぼりゆくから鎧坂母が言いし坂今日も変わらず
                      鈴木佑子

久しぶりに鎧坂にやって来て、昔と変わらない坂の急勾配をのぼっている。名前の由来は実際は違うのだろうが、母の言葉に実感がある。

どっちみち濃厚接触する人とコーヒーを飲む一つカップで
                      丸山恵子

上句にドキリとさせられる歌。ソーシャルディスタンスが言われる世の中だけれど、恋人や家族同士であれば、別にそんなの気にしない。


posted by 松村正直 at 08:43| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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