副題は「プロ棋士が将棋を失くした一年間」。
2018年に文藝春秋社より刊行された本の文庫化。
将棋の棋士として、またエッセイの書き手としても知られる著者が、自らのうつ病体験を赤裸々に記した一冊。2017年6月の発病から始まり、一か月間にわたる入院、その後の回復の日々、そして復帰へ向けて準備を進める2018年3月までの記録である。
うつは孤独である。誰も苦しさを分かってくれない。私には家族がいて、専門家の兄がいるという最強の布陣だったが、それでも常に孤独だった。
知ったのは、世の中にうつ病の人間がいかに多いかだった。実は私の兄弟がとか、親がとか、ごろごろ出てくる。そして身内にいる人といない人とでは、同じはなしをしても反応が違うのだ。
うつ病については知らないことが多かったので、今回この本を読めたのは良かった。
もちろん、将棋に関する話も出てくる。
なんといっても棋界は弱肉強食の世界である。常に厳しい競争を繰り返し、そして当たり前だが、みんな馬鹿みたいに将棋が強く、紙一重のところで勝負がつく。
将棋界は仲間意識は強いが、弱った者は基本的に叩かれるのが習いとなっている。奨励会はもろに淘汰の世界で、弱いものからはじかれていく。
藤井聡太棋聖の活躍もあって近年将棋が大きな注目を集めているが、実力勝負の厳しい場であることをあらためて感じた。
2020年7月10日、文春文庫、600円。