2020年07月10日

逢坂みずき歌集『虹を見つける達人』

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2014年から2019年までの作品368首を収めた第1歌集。
大学生活や就職、ふるさとの祖父母のことなどが率直に詠まれていて、良い歌が多かった。

のど自慢見ながら鍋のひやむぎを啜つてゐるとき実家と思ふ
おまへは何になる気なんだと父が言ふ何かにならねばならぬのか、われは
ケイコウペンのケイは蛍であることを捕まへて見せてくれし大き手
友達がFacebookにのせてゐる写真の中にわたしが居ない
この部屋にあと三日住む耳かきはもう段ボールに入れたんだつた
あぢさゐも樹だと気づけて良かつたよ並木道へと変はるこの路地
東京ゆき夜行バスにていま君がともす小さな灯りを思ふ
ストーブの効いた部屋から雪を見る 出会ふまへ他人だつたのか僕らは
忘れてと言つたけれども ざらめ雪 わすれられたらせつないものだ
寝過ごせば動物園に着くといふ電車を今日も途中で降りる
手袋をつくりし人のてのひらの冷たさ思ふ霜月の朝
おつぴさんは曾祖父/曾祖母の意味なりて男女(をとこをんな)はもう区別せぬ
潮騒のやうなるサ行の訛りかなわたしは寿司(すす)も獅子(すす)も大好き
思ひ出す雪の日ダイソーに行つたこと君とわたしと君の彼女と
朝ドラはヒロインがすぐ東京に行くから嫌ひ コーヒーの湯気

1首目、昔と変わらぬ実家の風景。大皿に盛らずに鍋から直接取る。
2首目、将来を案じる父に対しての見事な切り返し。
3首目、蛍を捕まえて見せてくれた人に対する淡い恋心。
4首目、一緒に撮った写真なのに省かれてしまっている。
5首目、引っ越し前の落ち着かない感じがよく伝わってくる。
6首目、両側に紫陽花が咲く道も見方によっては「並木道」なのだ。
7首目、ラインでやり取りすると相手のスマホの画面が灯る。
8首目、出会う前の他人同士だった二人を今では想像できない。
9首目、三句「ざらめ雪」が挿入されているのがいい。
10首目、通勤に使う路線。終点の動物園までは行ったことがない。
11首目、手袋を作る人はもちろん素手で作業しているのだろう。
12首目、宮城の方言。性別から自由になることへの憧れもある。
13首目、海に近いふるさとの訛りと祖父母に対する愛情。
14首目、語順がいい。四句目までははデートの場面かと思う。
15首目、上京が夢をかなえる手段であった時代はもう終ったのだ。

2020年7月1日、本の森、1200円。

posted by 松村正直 at 08:34| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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