2020年07月08日

近藤康太郎『おいしい資本主義』


朝日新聞の人気連載「アロハで田植えしてみました」の著者が、自らの体験を記した本。

東京でライター兼新聞記者の仕事をしていた著者は、東京での生活に行き詰まりを覚え、諫早市に移って朝1時間だけの田んぼ仕事をすることにする。目標は自分の食べるだけの米を自分で作ること。

と言っても、単なる農業体験記ではない。現代の資本主義社会の問題点を指摘し、新たな生き方を提案・実践する思索の書でもある。

じつは、日本は瑞穂の国ではない。日本の国土が稲作に適しているというのは、美しい神話だ。植物としての稲を、いわば「工業製品」として、廉価に、大量に、効率的に栽培しようと思ったら、日本の風土が最適というわけでは決してない。
いまの社会はコミュニケーション能力に過剰に力点を置いている、「コミュ力強迫社会」である。コミュ力、コミュ力と追い立てられて、居場所がなくなっちゃう人、適応できない人、生きにくくなっている人が、一定数、出てきているのも事実。
うまい農家はカネなんか使わない。というか、「貨幣でなんとでもなる」という時代精神は、田では思考の怠惰でしかない。

好きなライター仕事を一生続けていくために、とりあえず自分の食い扶持は自分で作る。実にシンプルで、かっこいい。

2015年8月30日、河出書房新社、1600円。


posted by 松村正直 at 07:49| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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