「君が代」は、賛成か反対かの二元論で語られるか、敬して遠ざけるといった態度を取られることが多い。それに対して著者は、以下の6つの疑問を解き明かしたうえで「君が代」への新しい向き合い方を提案している。
・なぜこの歌詞が選ばれたのか
・誰が作曲したのか
・いつ国歌となったのか
・いかにして普及したのか
・どのように戦争を生き延びたのか
・なぜいまでに論争の的になるのか
歌詞や作曲など、自分自身こんな基本的なことも知らなかったのかと驚かされることばかり。まずは「君が代」についてよく知ることが、議論のためにも必要なのだ。
唱歌や軍歌と呼ばれる歌は、鉄道や通信制度などと同じく、明治政府の関係者が西洋諸国を参考にして導入したものであった。
当時、国歌を作りうる政府機関は、陸軍軍楽隊、海軍軍楽隊、宮内省雅楽課、文部省音楽取調掛の四つしかなかった。
インターネットで検索すればすぐ「君が代」の音源が見つかる現代では考えにくいが、録音技術が未発達な時代、その模範的な歌い方を実際に聴くことは容易ではなかった。
起立して、姿勢を正し、「君が代」を一回だけ歌う。(…)現在我々が当たり前だと思っている「君が代」斉唱の風景は、実は戦時下に完成したものに他ならなかった。
「君が代」をめぐる話を通じて浮かび上がってくるのは、明治以降の日本の歴史であり、近代日本が抱え込んだ様々な矛盾や軋轢である。それは過去の話ではなく、現在まで続く問題として残されている。
2015年7月30日、幻冬舎新書、860円。