27歳から31歳までの362首を収めた第2歌集。
タイトルは「せんやえいばく」。
春の鹿 いま僕の去るポストには英国宛の書簡がねむる
これ走馬灯に出るよとはしゃぎつつ花ふる三条大橋わたる
駅までをふたりで歩くふたしかな未来を臓器のように抱えて
いわなければいけないことを言うときのどくだみの花くらやみに浮く
わかるのとあきらめるのはべつのこと タルトの耳が砕けてしまう
窓からはどんぐり広場が見えている、病み上がり、雨上がり、逆上がり
死ぬことで完全となる 砂風に目を閉じている驢馬の一頭
ダム底に村が沈んでいくような僕の願いはなんでしたっけ
iPhoneの中のあなたは手を振った 背骨のような滝のふもとで
胸にあなたが耳あててくる。校庭のおおくすのきになった気分だ
1首目、初句「春の鹿」のイメージが二句以下と遠く響き合う。
2首目、死ぬ時に思い出す人生の名場面集の一つになるとの思い。
3首目、「臓器のように」がいい。美しいばかりではない。
4首目、ひらがなの多用が効果的。どくだみの小さな白い花。
5首目、「諦む」の語源が「明らむ」だとは言うけれども。
6首目、下句の「上がり」の3連発に懐かしさと寂しさを感じる。
7首目、情と景の取り合わせ。視界が閉じて一つのものが完結する。
8首目、記憶の底へと沈んで自分でもわからなくなってしまう。
9首目、「背骨のような」が面白い。あなたと滝のスケールの違い。
10首目、相聞歌。あなたと一緒にいる安心感とゆったりした気分。
2020年5月10日、青磁社、1800円。


