2020年06月26日

森田アヤ子歌集『かたへら』

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昨年、第7回現代短歌社賞を受賞した作品。
縁があって栞を書かせていただいた。

伸び出でしばかりの太き早蕨を山よりもらふ蒔かずにもらふ
じやがいもの花が咲きたり便りせぬ子よ奨学金は返してゐるか
畝立ての土の中より出できたり青のぼかしのおはじきひとつ
物置の屋根に玉蜀黍(コーン)の芯いくつ日に晒されて猿の影なし
二日ほどかはゆき声を跳ねさせてビニールプールは帰りゆきたり
むりをして揃へし全集マカレンコ矢川徳光書架に古りつつ
立秋の周防岸根の畝に蒔くチリ産黒田五寸人参
毒もつと教へて父の絶やさざりし鳥兜さく明き藍色
ロールシャッハテストのやうに対称に湖水に映る紅葉の山
沢庵を漬け込むそばに亡き人が柿の皮など入れよといへり
全身に振動伝へチェーンソーが木の歳月を通過してゆく
小径もてつながる班の十三戸背戸に迫れる崖みな高し

1首目、歌集の巻頭歌。自然の恵みをいただくことに対する感謝。
2首目、初二句と三句以下の取り合わせに味わいがある。
3首目、かつて子が遊んだものか。「青のぼかし」が目に浮かぶ。
4首目、屋根の上で玉蜀黍を食べて芯だけ捨てていった猿。
5首目、ビニールプールとともに元気な孫たちも去ってしまった。
6首目、1970年代に日本でも広まったソビエトの教育理論。
7首目、固有名詞がよく効いている。「周防岸根」と「チリ」。
8首目、毒があるからと排除するのではなく、大切にしていたのだ。
9首目、紅葉した山が湖面にくっきりと色鮮やかに映っている。
10首目、祖母や母と同じことを自分もしているという思い。
11首目、木を切ることは「木の歳月」を切ることだという発見。
12首目、「十三戸」という具体がいい。背後には山がそびえる。

おススメです!

2020年6月17日、現代短歌社、2000円。

posted by 松村正直 at 08:11| Comment(2) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
もちろん、すぐに注文しました。まもなく到着予定。
選考会の様子も月刊誌の方でよんでいましたので、出版されたら購入しようと思っていたのでした。
受賞の時の写真、畑仕事中の笑顔がよかったなーと。

ここで知った京都の千松さん。
よみ返す度にまだまだ面白いです。
「熱源」、これもすぐ買いましたが、連れ合いさんの方が熱中して一気読みしておりました。
書籍紹介は特に楽しみです。
Posted by 豚肉を揚げる音 at 2020年06月26日 18:39
『かたへら』ご注文いただき、ありがとうございます。僕は農作業は全くしたことがないのですが、『かたへら』の歌にはとても心惹かれました。

千松信也さんは今年、映画「僕は猟師になった」も公開されます。今のところ長崎での上映予定はないようですが。
https://www.magichour.co.jp/ryoushi/

読みたい本はたくさんあって本をどんどん買うのですが、なかなか読みきれません。それでも、読む予定の本を机の周りに積んでおくのは楽しいです。
Posted by 松村正直 at 2020年06月27日 11:52
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