2020年06月25日

「塔」2020年6月号(その3)

トイレットペーパーとして生まれれば痩せてゆくしかない日
々がある                 千葉優作

トイレットペーパーは使うほどに小さくなっていき、最後には芯だけが残る。そんな姿に自分自身の人生や生活を投影しているのだろう。

もうあまり詩は書かないということが綴られて手紙、ポター
ジュのよう                中田明子

書簡集や文学館などで展示されている手紙か。かえって詩に対する強い愛着を感じさせる内容だ。ポタージュの粘性がその愛着と重なる。

一パックに二十四個のひかりあり苺はわれに生きよと言ふか
                     木原樹庵

24個入りのイチゴのパック。その一粒一粒を「ひかり」と捉えたのがいい。イチゴの色の明るさやが生きる希望を与えてくれるようだ。

「中国製」を今も悪口として言う母は先進国の国民
                     平出 奔

かつての「中国製」は安物や粗悪品というイメージが強かった。経済的な力関係が変ったのに考え方を変えない母に対する強烈な皮肉。

糸の輪が代わる代わるに形かえわたしの川があなたの船に
                     成瀬真澄

二人であや取りをしている場面の歌で、下句がいい。糸が形を変えるだけのことだが、「川」と「船」で二人の関係を美しく描いている。

あれこれとめがね選びにのぞきこむ鏡のなかに父と出会えり
                     小林文生

父はもう亡くなっているのだろう。眼鏡を掛けた自分の顔が亡き父の顔に似てきたのだ。年齢を重ねると父の気持ちもわかるようになる。

最後までここにいたいと母さんは言ってるじゃない言ってる
じゃない                 東大路エリカ

ひとり暮らしの母を施設に入れる場面。自宅での生活を望む母の言葉が胸に突き刺さる。「言ってるじゃない」の繰り返しがせつない。


posted by 松村正直 at 00:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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