2020年06月24日

「塔」2020年6月号(その2)

雪のない湾岸の国の冬終わり二月気温は上がり始める
                     春澄ちえ

UAE(アラブ首長国連邦)に住む作者。二月と言えば日本ではまだまだ真冬という感じだが、UAEではもう暖かくなりは鯵めるのだ。

対角であくびをこらえている人と五分に一度目が合う会議
                     乙部真実

大勢が参加している会議だろう。ロの字になった机の対角の位置で眠気をこらえる人と目が合う。退屈な会議の様子がよく伝わってくる。

馬酔木には鹿はふれずにゐるらしく早も萌え出づる草食みて
をり                   古谷智子

馬酔木は葉にも花にも樹皮にも毒があるので、鹿はよく知っていて手を付けない。馬酔木には見向きもせず、伸び始めた草を食べている。

空だけを眺めて過ごす一時間ときをり草が耳をくすぐる
                     近藤真啓

下句の描写がいい。草原に寝ころんでいる場面を想像した。風に吹かれた草が耳に触れるのも心地よい。全てから解放されたような気分。

百枚入りの長形三号手にとりぬためらいもなく買いし日のあり
                     相本絢子

以前は何のためらいもなく買ったけれど、今ではためらってしまう。百枚という分量を自分が生きている間に使い切れるのかと考えて。

その店を教えてくれたともだちがいなくなっても店にはかよう
                     山名聡美

最初は友人に連れて行ってもらった店に、友人がいなくなった今でも通う。店を訪れるたびに、その友人のことを思い出すのだろう。


posted by 松村正直 at 07:46| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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