雪のない湾岸の国の冬終わり二月気温は上がり始める
春澄ちえ
UAE(アラブ首長国連邦)に住む作者。二月と言えば日本ではまだまだ真冬という感じだが、UAEではもう暖かくなりは鯵めるのだ。
対角であくびをこらえている人と五分に一度目が合う会議
乙部真実
大勢が参加している会議だろう。ロの字になった机の対角の位置で眠気をこらえる人と目が合う。退屈な会議の様子がよく伝わってくる。
馬酔木には鹿はふれずにゐるらしく早も萌え出づる草食みて
をり 古谷智子
馬酔木は葉にも花にも樹皮にも毒があるので、鹿はよく知っていて手を付けない。馬酔木には見向きもせず、伸び始めた草を食べている。
空だけを眺めて過ごす一時間ときをり草が耳をくすぐる
近藤真啓
下句の描写がいい。草原に寝ころんでいる場面を想像した。風に吹かれた草が耳に触れるのも心地よい。全てから解放されたような気分。
百枚入りの長形三号手にとりぬためらいもなく買いし日のあり
相本絢子
以前は何のためらいもなく買ったけれど、今ではためらってしまう。百枚という分量を自分が生きている間に使い切れるのかと考えて。
その店を教えてくれたともだちがいなくなっても店にはかよう
山名聡美
最初は友人に連れて行ってもらった店に、友人がいなくなった今でも通う。店を訪れるたびに、その友人のことを思い出すのだろう。