朝日新聞で不定期に連載されていた「アロハで猟師してみました」の書籍化。と言っても、内容は大幅に書き加えられている。
新聞では狩猟をめぐるドタバタが面白おかしく記されていたのだが、本書を読むとその背後にきちんとした思考の筋道や人生観があることがわかる。実は非常にマジメな内容だったのだ。
耕作放棄地での米作りに始まり、鉄砲を使った鴨猟、そして罠を使った鹿猟と、新聞記者兼ライターの著者は次第にフィールドを広げてゆく。
猟師になると、初めて〈世界〉が見える。〈世界〉が聞こえるようになる。音、色、匂い。風や水面や樹木や葉っぱなど、世界を見る目がまるで変わってくる。
人力田植えとは、触覚、視覚、聴覚、味覚を動員する「感性の力作業」であった。(略)猟になると、ここに嗅覚も加わる。田んぼに猟は、五感を最大限に働かせる、人間性回復の営みでもあったのだ。
耕作放棄地、有害鳥獣、空き家問題は日本の三大問題で、これから税金を使って解決していかなければならないことはわかりきっている。問題の根は同じで、地方の人口減少と少子高齢化である。
こうした思考の一つ一つに実践が伴っているので説得力がある。実行力に裏打ちされた理論は強い。
五年後の自分が、まったく予想していなかったものになる。変えられてしまう。五年後の自分の姿が想像できない。これが生きる醍醐味でなくてなんであろう。
本当にその通りだと思う。分かりきっている人生だったら歩いてみなくたっていいのだから。
2020年5月30日、河出書房新社、1600円。