牧水と言えば明治40年から41年にかけて恋人の園田小枝子と過した根本海岸(南房総市)が有名だが、布良はその根本海岸に隣接した場所である。
思ひ屈し古ぼろ船に魚買(うをかひ)の群れとまじりて房州へ行く
病院の玻璃戸に倚れば安房の海のあなたに伊豆の山焼くる見ゆ
藻草焚く青きけむりを透きて見ゆ裸体(はだか)の海女と暮れゆく海と
安房の国の朝のなぎさのさゞなみの音(ね)のかなしさや遠き富士見ゆ
『独り歌へる』
海を越えて伊豆大島(三原山)や富士山が見えている。地図で調べると伊豆大島は距離にして約40キロとけっこう近い。富士山までは約110キロである。
布良は、青木繁「海の幸」(明治37年)の舞台でもあるが、「藻草焚く」の歌にも絵の世界と通じるものが感じられる。