「旅」「街」「住む場所」についてのエッセイ集。2017年に幻冬舎より刊行された単行本『ひきこもらない』を改題、再構成して文庫化したもの。
旅先でも一切特別なことはしない。観光名所なんか一人で行ってもつまらない、景色なんて見ても2分で飽きる。一人で食事するときはできるだけ短時間で済ませたいので、土地の名物などは食べず、旅先でも普通に吉野家の牛丼とかを食べている。
というようなスタイルで、「ぼーっとしたいときは高速バスに乗る」「一人で意味もなくビジネスホテルに泊まるのが好きだ」「チェーン店以外に行くのが怖い」「夕暮れ前のファミレスで本を読みたい」「昔住んでた場所に行ってみる」といった話が書いてある。
僕にとって旅行というのは普段しないような珍しい体験をしたくてするものではなくて、ただ自分のいつもの見慣れた日常を抜け出して、知らない土地で行われている別の日常を覗き見したくてしているようなところがあるのだと思う。
細かい場所に面白さや新しさを見出せる視点さえあれば、家の近所を散歩しているだけでも毎日新たな発見がある。既知と思っていることの中にいくらでも未知は隠れているものだ。
電車を降りたらまず駅前にある地図を見て、「東口より西口のほうが栄えてそうだな」などと、街の構造を想像する。
カフェなどを仕事場にするときのジレンマというのがあって、それは「空いている店は落ち着けてよいけれど、あまりにもガラガラの店は潰れてしまう」というものだ。
今の僕は京都を遠く離れて東京に住んでいるけれど、東京にはなぜ鴨川がないのだろうと不満に思う。
共感する箇所を引用し始めるとキリがないくらいだ。一番根本にあるのは、社会の中でどのように自分を保ちつつ自由に生きていくか、ということだろう。でも、あまり共感し過ぎてもいけない気がする。そのあたりが何とも微妙なところ。
2020年2月10日、幻冬舎文庫、600円。