副題は「知られざる裏面の検証」。
最も新しい啄木の全集『石川啄木全集』(筑摩書房、1978〜1980)は、全8巻のうち第五巻と第六巻の2冊が「日記」となっている。啄木の日記は、現在、啄木研究に欠かせない資料である。
しかし、この日記は啄木の死後すぐに公開されたわけではない。出版されたのは戦後のことで、1948年〜49年に出た『石川啄木日記』(全3巻、世界評論社)が最初である。啄木が亡くなって実に36年が経っていた。それまで日記は公開されず、啄木の遺言通り焼却される可能性さえあったのだ。
啄木の書き残した日記は、どのような経緯をたどって公刊されるに至ったのか。著者は綿密な調査によって、それを明らかにしている。本の中で引用されている宮崎郁雨の言葉を引こう。
自ら焼棄すべきであつた彼の日記を其儘現世へ遺して逝つた啄木、焼けと言はれた遺志に悖つてそれを形見として贈つた節子さん、筐底深く私蔵すべきであつたそれを図書館に寄託して閲読の機縁を作つた私、見すべきでなかつたそれを特殊の人達に繙読させて不識不知の間に公開出版の輿論を培つた岡田氏。その何れもが夫夫に批判さるべき過誤を犯した事になるのであらう。私は然しそれ等の事態の奥底に絡はる、情理を超えた愛着の強さと人力を絶した運命の奇しさとに深く考へさせられる。
石川節子、宮崎郁雨、土岐哀果、岡田健蔵、金田一京助、丸谷喜市、吉田狐羊、石川正雄。多くの人々の力によって、今、啄木の日記を手軽に読めることに深く感謝したいと思う。
2013年10月20日、社会評論社、2700円。