2020年05月18日

白井久也『検証 シベリア抑留』


敗戦後に約57万5千人がソ連各地で強制労働に従事させられ約5万8千人が死亡したとされる「シベリア抑留」。その原因や実態、国家賠償を求める裁判などについて記している。

本書の一番の特徴は、シベリア抑留がなぜ起きたかという点を詳しく分析しているところだろう。それは単に国際法を無視したソ連の横暴や日本軍の無責任な体質のためでけでなく、様々な要素が結び付いて行われたものであった。

一つには、激しい独ソ戦で約2660万人もの死者を出したソ連では労働力の不足が著しかったこと、また、スターリンの独裁下で政治犯などを収容するラーゲリが全国各地にあったこと、大戦末期に日本が植民地の割譲や兵力賠償を条件にソ連に和平交渉の仲介を依頼したこと、日本には捕虜を恥とする考えが根強く捕虜の扱いや権利に関する知識が不足していたこと、などである。

もともと給食の定量が少なくて、慢性的飢餓感に苛まれていた日本人捕虜は、ノルマを巧妙に操った「懲罰減食」の恐怖におびえて、わが身を一段と過酷な捕虜労働に駆り立てた結果、病気になったり、命を落としたりする悲劇が、後を絶たなかった。
「反動」の烙印を押された捕虜は、捕虜集会に引き摺り出され、「吊し上げ」という名の大衆制裁を受けた。アクティブたちが被告となった捕虜の罪状を告発、自己批判を強要するのだ。

シベリア抑留の実態は、読めば読むほど悲惨の限りである。でも、それを戦争の生んだ悲劇とだけ捉えていても始まらない。実態を正確に記録し、原因や責任を明確にすることが、私たちの今後のためにも必要なのだ。

2010年3月15日、平凡社新書、800円。

posted by 松村正直 at 08:54| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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