副題は「近現代詩を味わい、学ぶ」。
人気の評論家である著者が、自分の好きな詩歌について分析も交えながら楽しく論じた一冊。明治から戦後にかけての文壇交流史や文学史として読むこともできる。
取り上げられている詩人・歌人は、正岡子規、伊藤佐千夫、長塚節、与謝野鉄幹、夏目漱石、森鷗外、大塚楠緒子、与謝野晶子、乃木希典、上田敏、北原白秋、木下杢太郎、佐藤春夫、萩原朔太郎、吉井勇、若山牧水、中村憲吉、中原中也、石川啄木、百田宗治、萩原
恭次郎、小熊英雄、片山廣子、芥川龍之介、高村光太郎、山村暮鳥、千家元麿、三好達治、佐藤惣之助、立原道造、堀辰雄、折口信夫、斎藤茂吉、山之口獏など。実に幅広い。
日清戦争時の戦争詩というと新体詩ではなく圧倒的に漢詩です。文人だけでなく、戦地の将校や兵卒らも漢詩を作っては日本に送り、それが雑誌などによく載っていました。
北原白秋旗下の三羽烏といえば萩原朔太郎、室生犀星、大手拓次ですが、彼らは三感覚をそれぞれ継承した感があります。萩原は色彩、室生は味覚、そしてもちろん大手といえば香りですね。
私は長塚節の小説『土』と共に中村憲吉の造り酒屋の歌が、日本の地方・農村というものを考えるうえで、今も忘れてはならない根源的な精神を伝えてくれていると考えています。
弟子が一人前になるには、師と決別する時期を持たなければなりません。強く惹かれる分、師の模倣ではない「自分だけの世界」を確立する努力は辛いものとなります。
時おり混じる軽い口調が少し気になるが、全体に詩歌に対する深い愛情と博識ぶりに引き込まれて読んだ。短歌は短歌、詩は詩と分けて考えていても、近代の詩歌は見えてこない。もっと詩を読んで、詩に対する理解を深めていかなくてはと思う。
2019年11月30日、光文社新書、940円。
国家のアイデンティティが脅かされる時、偽書は作られるのだというようなことを書かれていたと記憶します(違う人だったらすみません)。
そうなんだろうなあと思います。