副題は「日本の保守主義者」。
日本政治思想史、比較ナショナリズム論を専攻する著者が、長く惹かれ続けてきた折口信夫の思想を分析した本である。
関東大震災や二・二六事件、そして戦争と敗戦に対して、折口がどのように考え行動してきたのか。その心情に寄り添いながら66年の生涯をたどっている。
ネイションへの肯定的なこだわりをナショナリズムと呼ぶならば、折口はまさに、強烈なナショナリストである。ただし、国家よりも社会に、そして民族と宗教に特にこだわりを持つため、社会的・宗教的志向の強い民族主義者と呼ぶべきであろう。
研究者としても創作者としても、折口には独特の魅力がある。創作者としての折口は、歌を主とし、詩や小説にも実験的に取り組んだ。研究者としては、国文学と民俗学を主たる分野とし、国学や神道の研究をそこに連結させた。創作者の立場と研究者の立場は入り組んでつながっており、魅力的だが理解しにくい原因となっている。
全体にコンパクトにまとまっていて読みやすいのだが、折口の行動や心情を分析する際に折口の弟子たちの記述に頼り過ぎな気がする。弟子は師のことを悪くは言わないので、そこにだけ依拠していては客観性を保てなくなってしまうだろう。
歌こそは、一期(イチゴ)の病ひ――。
しきしまの 倭の国に、
古き世ゆもちて伝へし 病ひなるべき
『古代感愛集』
2017年10月25日、中公新書、820円。