
2015年から2019年までの作品を収めた第3歌集。
しろたへのパナソニックの冷蔵庫うちあげられし浜にやすらぐ
塵取りにあつめし灰を壺に納め母の人生は蓋を閉ぢたり
小上がりの店の奥よりもれ聞こゆ「よさないかい」と男のこゑは
妻なしとなりける島田の手を握り言ふことかある妻あるわれに
こゑのみに親しき島田が妻の顔はじめて見(まみ)ゆ棺のうへから
駅員のアナウンス真似る青年の常の座席に居らずさびしき
瑞泉寺の山より出でし真実は曲がりくねつた自然薯である
北海のとどろく潮(うしほ)に洗はれしししやもが二匹皿にかがやく
日曜の遅き朝餉に絹さやのわが手に摘むを汁にして食ぶ
石鯛のすきとほりたる一切れは美しき虹残して消えぬ
1首目、海岸に横たわっている白い冷蔵庫。「やすらぐ」がいい。
2首目、母の骨上げの場面。一つの人生の完結を感じている。
3首目、つい何が起きているのかと気になってしまう。
4首目、「島田修三夫人告別式」の歌。掛ける言葉もない。
5首目、電話の取次ぎで何度も話をしたが会ったことはない関係。
6首目、青年に対するやさしい眼差しを感じる。
7首目、真実は真っ直ぐなものという一般的なイメージを覆す歌。
8首目、皿に置かれたししゃもの背後にある海を想像する。
9首目、日曜日なので時間的余裕がある。自宅で採れた絹さや。
10首目、刺身の表面に見えている虹色の脂。美味しそうだ。
2020年4月14日、砂子屋書房、3000円。