2010年に京阪神エルマガジン社から刊行された単行本を加筆修正して文庫化したもの。
25歳であんこの美味しさに開眼した作者が、全国36軒の店を取材して紹介している。それぞれの店の人の語る言葉が印象深い。
甘さ控えめがいいみたいに言われてますけど、砂糖を減らしたら控えめに感じるかと言えば、それは違う。ただの水くさいあんこになってしまうんです。(紫野源水)
大阪の御堂筋のイチョウ並木の黄色とね、和歌山の高野山のイチョウの黄色は違うんですよ。御堂筋のはすこーし濁った黄色ですわ。高野山は透明な黄色。(河藤)
あんこに関する話も興味が尽きない。
京都の和菓子屋さんには、意匠に凝ったその店独特の菓子を出す上生菓子屋さん、饅頭や最中を出すおまん屋さん、餅や餅菓子を出すお餅屋さんの3種類ある。
小豆は、世界の豆類の中でかなりマイナーな存在だ。おもに栽培は東アジアでされているが、伝統的に流通・食用までしているのは中国、韓国、台湾、日本の4か国ほど。その中で一番小豆を食べているのが日本で、ほとんどをあんこにして食べている。
日本人って、そんなにあんこが好きだったのか・・・
巻末の「あんこ日記」によると、作者は日本国内にとどまらず「東アジアあんこ旅」と称して、韓国、台湾、中国、ベトナムにも取材に出向いている。その上で「あんこへの道は迷宮入りした。しかし、ここから新たな扉が開くような予感もする」と書く。
あんこって、奥が深い。
2018年3月10日、文春文庫、850円。